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東京地方裁判所 昭和24年(ヨ)2003号 決定

申請人

鈴木市蔵

外十六名

被申請人

日本国有鉄道

主文

本件仮処分申請はこれを却下する。

理由

本件は、被申請人が昭和二十四年七月十三日申請人江口に対し、同月十六日申請人今井、平坂に対し、同月十八日その余の申請人等に対しそれぞれなした免職の行為は無効であるからその無効確認の本案判決確定迄仮の地位を定める仮処分として「被申請人は申請人等十七名を従前通りその職員として待遇しなければならない」との裁判を求めるというにある。これに対し被申請人は本件免職行為は行政事件訴訟特例法第十条第七項(以下特例法という)にいわゆる行政庁の処分に該当するものであるから本件仮処分申請は許さるべきでないと主張する。そこで本件においては係争の免職行為の無効か否かを判断する前に先ずこの点を判断する必要がある。

第一、特例法第一条は「行政庁の違法な処分の取消又は変更に係る訴訟その他公法上の権利関係に関する訴訟についてはこの法律によるの外、民事訴訟法の定めるところによる。」と規定し、更に同法第十条第七項において「行政庁の処分については仮処分に関する民事訴訟法の規定はこれを適用しない」と規定しているから、問題は、被申請人のなした本件免職行為がはたして特例法第十条第七項にいう「行政庁の処分」に該当するか否かにかかるわけである。

特例法第十条の「行政庁の処分」とは何を指すかに関し同法には別段の規定がないからその内容はその言葉が通例有する意味と特例法の立法趣旨に照らし合理的にきめられるべきである。一般に国又は地方公共団体の行政事務を担当する機関すなわち国又は地方公共団体の行政機関がその行政権の作用として行う行為がこれに該当すること及び国又は地方公共団体以外の公法人、例えば各種の公共組合、公団等がその設立目的を達成する為に法律により与えられた行政権の行使としてなす行為もまた右法条にいう「行政庁の処分」に該当することはいずれも疑ないところであつて、これ等の行為はいずれもこれを行為者とその相手方との法律関係として見るときは、国家権力を有するものとこれに服従するものとの間におけるいわゆる権力関係すなわち公法関係ということができる。ところが同じく国その他の公法人が行う行為であつてもそれが行政権の作用としてなされるものでない場合換言すれば行為者とその相手方との関係が右のような権力関係――公法関係――にたたないて一般私人相互間におけると同様な対等関係――私法関係――にあるものと法律上認められる場合には、その当事者である国その他の公法人と相手方との関係は一般の私法関係と同じく民事訴訟の対象となるべきものであつて、特例法に定める行政訴訟の対象となるものではないといわなければならない。けだし特例法がいわゆる行政訴訟を一般の民事訴訟と区別し前者につき若干の特別規定――就中(イ)利害関係人の訴訟参加を裁判所の職権により命じうるものとした第八条(ロ)公共の福祉維持の為に必要なときは裁判所の職権による証拠調の途を設けた第九条(ハ)行政訴訟事件の内行政庁の違反処分の取消変更を求める訴訟(同法第二条の訴いわゆる抗告訴訟)についてその訴の提起期間を原則として六ケ月又は一年に限定した第五条(ニ)同様の訴を提起する行政庁の処分はその執行を停止しないこと、一定の条件の下に裁判所の決定を以てその処分の執行の停止を命じうべきこと右行政庁の処分については仮処分に関する民事訴訟法の適用をしないことを各定めた第十条(ホ)同様の訴において、たとい行政庁の処分は違法であつてもその取消又は変更が公共の福祉に適合しないと裁判所が認めるときは請求棄却の裁判をなしうるものとした第十一条の規定等――を設けた理由は行政訴訟の対象である公法上の法律関係においては、私法上の法律関係の場合に比し、一般に、その裁判の結果が公共の利益に一層密接な関係を有するが故に、その審理手続にある程度の職権主義を加味すると共に、特にいわゆる抗告訴訟については、それが行政権の作用として公の権威を以てなされた行政庁の処分に関するものであるからたといその処分は違法のものであつても正当の権限を有する機関により取消され又は執行の停止が命ぜられない限り一応適法なものと推定の下にその処分の内容に従つた執行力を有し処分の相手方はこれに従う義務があるとするのが相当であるという考え方に基くものであるから、等しく国その他の公法人の行為であつてもそれが公法上のものでなく一般私人間におけると同様の対等関係――私法関係――にあると認められる場合に迄特例法を適用すべき合理的理由は少しもないからである。

第二、さて、本件において被申請人日本国有鉄道(以下国鉄という)は従来国が経営してきた国有鉄道事業を経営し能率的な運営によりこれを発展せしめ、もつて公共の福祉を増進することを目的として設立せられた公法上の法人であることは日本国有鉄道法(以下国鉄法という)第一条第二条の明定するところであり、又申請人等十七名はいずれも国鉄の職員(但し公共企業体労働関係法第四条第一項但書及び第二項に定める、管理又は監督の地位にある者及び機密の事務を取扱う者として政令に規定せられている労働組合員たる資格を有しない職員ではない)であり且国鉄労働組合の中央闘争委員であつたが、被申請人は昭和二十四年七月十五日申請人江口に対し、同月十六日申請人今井、平坂に対し、同月十八日その余の申請人等に対しそれぞれ行政機関職員定員法(以下定員法という)に基く処分として免職するという意志表示をしたことは当事者間に争がない。すなわち本件において申請人等が無効を主張する行為は公法人である国鉄がその職員である申請人等を定員法附則第八項によりその意に反して一方的に免職した行為であるが、この免職行為が特例法第十条第七項にいわゆる「行政庁の処分」に該当するかどうかを判断する為には一般に国鉄とその職員(但し労働組合員たる資格のない職員を除く、以下職員というときはこの意味に用う)との間の勤務関係がこれに主として適用せられる国鉄法及び公共企業体労働関係法(以下公労法という)並びにその他の実定法上前に述べたような権力関係――公法関係――として規律されているかはたまたま対等関係――私法関係として規律されているかどうかの点と更に本件におけるような定員法に基く免職行為は定員法の規定上権力関係にたつものと認むべきかどうかの点とを検討する必要がある。

第三、国鉄とその職員との間と勤務関係は、一般に公法関係か私法関係か。

(一)  国鉄は前認定のように公法人であるが、その設立目的は従来の国有鉄道事業を引継ぎその能率的な運営をはかるにあるのであつて元来鉄道事業というようなものは私人でもその企業主体となりうる種類の事業であるからかような事業を目的とする国鉄はその事業の性質からみて国の行政事務を担任することを本来の任務とするいわゆる国の行政機関に属しないことは明かであり形式的にみても国家行政組織法に定める国の行政機関には含まれていない。国の行政機関を構成する国家公務員の国に対する勤務関係に付ては一般に国家公務員法の適用があり(同法に定める特別職のものを除く)その勤務関係は公法関係と観念せられているが、行政機関でない国鉄とその職員間の勤務関係は固よりこれと同一に論ずることはできない。現に国鉄法第三十四条第二項は国鉄の職員には国家公務員法の適用せられないことを明記している。併しながら又一面において、国鉄が公法人と定められたのはその目的とする事業の運営如何が国の経済政策、社会政策に極めて密接な関係を有しこの意味において一般の私鉄事業と異る高度の公共性を有するものと認められることによるものであつて、この公共性の故に国鉄職員の勤務関係について実定法上私鉄事業の場合と異る規律が定められていることは否定できない。

(二)  今これを国鉄法及び公労法の規定についてみるに、(甲)先ず国鉄法中には職員の勤務関係を規律するものとして、(イ)職員の任免は能力の実証に基いて行う旨(第二十七条)(ロ)一定の事由があるときは職員の意に反してもこれを降職、免職、休職できる旨(第二十九条、第三十条)(ハ)一定の事由あるときは総裁は職員に対し免職処分ができる旨(第三十一条)(ニ)職員は職務の遂行につき法令、業務規律に従う外全力をあげてこれに専念しなければならない旨(第三十二条)等の規定があり、これと同様の規定は国家公務員法中にもこれを見出すことができる。併しながら、元来この種の事項は多数の従業員を有する一般の私企業においても法令又は団体協約に反しない限度でその就業規則等の中に同様の規定をしている事例は決して稀でないのみならず公労法第八条は国鉄職員に関する賃金、労働時間及び労働条件、就業規則、時間外割増賃金、休日及び休暇、懲戒規則並びに昇職、降職、転職、免職、休停職及び先任権の基準に関する規則等その勤務関係に関する相当広汎な範囲の事項につき団体交渉をなしうることを定めているから右(イ)乃至(ニ)の規定に反しない限り国鉄職員は国鉄と対等の立場でその具体的な運用基準等を交渉し協約を結ぶことを認められ、且協約締結に至らないときはその紛争解決の為に調停委員会又は仲裁委員会による調停又は仲裁の制度(公労法第五章、第六章)が設けられているのであつて、この点においてかかる対等の立場における団体交渉権を有せず専ら法律又は人事院規則の定めるところに一任せられている国家公務員とその勤務関係においてかなり著しい性質上の差異を認めることができる。(乙)公労法第十七条は国鉄職員の争議行為を全面的に禁止し、これに違反した職員は同法で認められた一切の権利を失い且つ解雇されるものとしている。これは前に述べた国鉄事業の高度の公共性を保護する為であつてこの点において国鉄職員の勤務関係は一般私企業の従業員が法律上企業者と対等の立場で争議権を認められているのとは異なる性格を帯びるものといわねばならぬ。(丙)公労法第五章及び第六章は国鉄と職員間の紛争解決方法として調停及び仲裁の制度を設けその機関として双方の推薦する候補者の内から委嘱せられる委員により調停委員会及び仲裁委員会を組織することを規定して居り、この二つの制度は一般私企業における労資紛争の解決方法として認められている調停、仲裁制度は近似しているが、国家公務員法にあつては、公務員の勤務関係に関する不服につき人事院に対し審査要求ができることを定めるのみであり、(第八十九条以下)しかもその規定に対しては国鉄の仲裁委員会の裁定に対し事実上及び法律上の点に付裁判所に出訴できるのと異り、僅に法律上の点に付てのみ裁判所への出訴が認められ事実認定の問題に付ては専ら人事院の専権に委ねられているのであつて(第三条)この点においては国鉄職員の地位は国家公務員と異りむしろ一般私企業従業員に近似する性格を有するものということができる。(丁)国鉄法第三十四条第一項は国鉄職員を公務に従事する公務員とみなしている。この規定の趣旨は凡ての関係において国鉄職員を国家公務員と同一に取扱うという趣旨ではなく、唯刑罰法規の適用及び職務の執行関係について公務員とみなすという趣旨であることは従来他の法令にも用いられている同様の文言が凡て右と同趣旨に解せられていることからみて疑のないところであり、この規定があるからといつて国鉄職員の勤務関係が国家公務員と同様に公法的性格を有するものとすることは適当でない(日本銀行法十九条には、日本銀行の職員につき同様の規定がある)尚国鉄法第五十六条以下には恩給法その他一定の法令の適用又は準用上「国鉄職員を国に使用させるものとみなす」とか「国鉄を行政庁とみなすとか国鉄を国又は各省各庁と読み替える」とかの規定があるが、これらはいずれも、従来国有鉄道事業が形式上国の行政機関によつて運営せられていた為に他の法令においては国有鉄道事業の主体を行政機関、その職員を国に使用される者として規定していたので国鉄が右国有鉄道事業を引継いだ後においても引続きこれら他の法令を国鉄又は国鉄職員に適用することができるようにする為の便宜的技術的の措置として設けられた規定であつて、このような規定があるからといつて国鉄職員の勤務関係が国家公務員の勤務関係と同様に公法関係であるということはできない。

(三)  以上の如く国鉄職員の勤務及びこれに伴う法律関係を規定する国鉄法並びに国鉄職員の労働関係につき労働組合法に優先して適用される公労法の諸規定を通覧すると、一面において国鉄職員には国家公務員の有しない相当広範囲の団体交渉権と紛争処理の為の調停及び仲裁の制度を認められこの面において国鉄職員の勤務関係は権力関係にたつ国家公務員よりもむしろ対等関係にたつ一般私企業従業員の勤務関係に近似する性格を帯びるものというべく、他面において、国鉄職員は一般私企業の従業員に認められている争議権を奪われ又前示のように一定の法令の適用上公務員とみなされる場合もあつて、この面においては、私企業の従業員と異り国家公務員に準ずる取扱をうけているものということができるであろう。従つてこれ等の点を綜合すれば、結局国鉄職員の勤務関係は実定法上国家公務員の勤務関係と同一視することはできないが、さればといつて一般私企業従業員の勤務関係とも同一視できないいわば両者の中間的性格を帯びるものと認むるの外はない。前に述べたように、鉄道事業はそれ自体の性質上その運営に国の権力を背景とすることを必要とするものではなく私企業としても優に成り立ちうる事業であつて、法律が国鉄職員の勤務関係に関し私企業の場合に近似する取扱をしているのはすなわちかかる国鉄事業の性質に由来するものというべく、他面、国有鉄道事業はその規模が全国的であることからその運営如何が公共の利益に影響するところは一般の私鉄事業に比し遥に高度であることは明かであり、国鉄を公法人としてその事業の運営を国の行政監督に服せしめ(国鉄法第九条以下)又国鉄職員の勤務関係につき一定の範囲で国家公務員に準ずるような規定が設けられているのはこの高度の公共性に由来するものというべきである。しかしながら右のような高度の公共性を保護する為に公法的規律を必要とするのは、主として国鉄の事業運営に関する面であつて、その面における関係を公法的権力的なものにしておけば、国鉄内部における職員の身分及びこれに伴う勤務関係というようなことは、これを公法的権力的なものにしなければならない特別の事情のない限り、通例はこれを公法間係を以て律する合理性は少いものと考えられる。国鉄法及び公労法が定める前掲諸規定は、すなわち右のような立場にたち、国鉄の事業運営に関する面においてはその公共目的を達するに必要な範囲において私企業とは異る公法的権力的規定を設けているけれども職員の身分及び勤務関係については、一般私企業における従業員のそれに準じ――個々点につき若干の相違はあるけれども――これを対等当事者間の私法関係として規律しているものと解するのが相当である。

(四)  以上の理由により国鉄法及び公労法の規定の解釈上国鉄職員の勤務関係は私人間の雇傭関係と同様に私法関係であつて、権力的な公法関係でないと認めるのが相当である(公労法第四条第一項但書第二項に該当するいわゆる幹部職員は労働組合員たる資格を認められていない結果、前述のような団体交渉権はこれを有しないけれども、その勤務関係がその余の一般職員と私法関係であることにかわりはないものと解する。

第四、定員法に基く本件免職行為に伴う法律関係は公法関係か、私法関係か。

定員法附則第七項ないし第九項は、国鉄職員は昭和二十四年十月一日においてその数が五十万六千七百三十四人を超えないように同年九月三十日迄の間に逐次整理される。国鉄総裁は右規定による整理を実施する場合においてはその職員をその意に反して降職し又は免職することができる。公労法第八条第二項及び第十九条の規定は右の場合に適用しない旨を定めている。すなわちこの規定によると、整理の必要ある員数に充つる迄国鉄総裁は国鉄職員をその意に反しても免職することができ、この場合にはその免職に関し公労法第八条第二項で認められている団体交渉も許されないし、同法第十九条に定める苦情処理共同調整会議に苦情を申出ることも許されないということになる。団体交渉が許されなければ仲裁委員会に仲裁を求めることも許されないことは公労法第三十三条により明かである。整理の基準、実施方法等に関し団体交渉をする権利も与えられず、整理人員の数につき一定の制限がある外、国鉄法第二十九条ないし第三十一条に認められているような保証もなく、全く一方的に免降職することができ、しかも被免、降職者はこれに対し裁判所に出訴する外、公労法に定められている不服申立の余地をも与えられていないということは、第三において述べた通例の場合における国鉄職員の勤務関係に比し使用者たる国鉄側に著しく有利且優越的地位を法律により認める反面その相手方である国鉄職員側には著しく不利且従属的地位を法律上定めたものといわなければならぬ。定員法による免、降職に関する限り右のことは国鉄職員の場合も国家公務員の場合と全く同一であつて(定員法附則第五項は国家公務員の免降職に関し国家公務員第八十九条ないし第九十二条の適用を排除し同条に定める人事院への不服申立を許さないことにしている)それは明かに国家権力の発動として職員側に忍従を強うる公法関係であつて当事者対等、私的自治を建前とする私法の観念をもつては到底理解することのできない関係であるというべきである。

そもそも今次定員法が行政機関の職員と並んで国鉄職員の整理に関し前者と同様の特別規定を設けた立法の趣旨は何であろうか。

思うに、定員法が制定公希された昭和二十四年五月三十一日当時は、まだ国鉄職員は現実には存在せず、同法附則第七項が人員整理の対象として規定した国鉄職員というのは、定員法と同時(昭和二十四年六月一日)に施行さるべき国鉄法及び同施行法にもとづき、国鉄職員として引継がるべき運輸省職員に外ならなかつた(国鉄法附則第三項、同施行法第二条)。

当時我が国においては、いわゆる経済九原則実施の一環として国家予算の均衡化を図るため一般行政機関の人員整理が万やむを得ない必要の措置とされそのため定員法は各行政機関の職員を定めると共に、その附則第三項で右定員以上の職員は同年九月三十日までの間に整理さるべき旨を規定し、運輸省職員も当然その枠内にあつたそして従来運輸省で運営してきた国有鉄道事業が国鉄に引継がれることになつても、予算の面では国家予算と同様に取扱われ国家財政と直接のつながりを持つのであるから人員整理の必要という点では別段の差異を生じるわけはなかつた。唯前記のようにたまたま定員法の施行と同時に国鉄法及び同施行法が施行され、運輸省職員の内で国有鉄道及びこれに関連附帯する事業係の職員は国鉄法(従つて定員法)の施行と同時に運輸省職員としての身分を失い国鉄に引継がれることになつていたので、定員法はこの職員について整理を行う意味で運輸省職員の整理とは別に附則第七項で国鉄職員の整理として同趣旨の規定を設けたのであるとこう考えられる。

とすれば、定員法における人員整理に関する限り、そこにいわゆる国鉄職員とはもともと運輸省職員なのでありその整理を必要とする趣旨は他の運輸省職員その他一般国家公務員の場合と別段の差異はないのであるから定員法が国鉄職員の整理に関し一般国家公務員の整理と同様の取扱いをしているのはむしろ自然の理ともいい得る。

こうした観点に立てば、定員法による国鉄職員の整理に関する限り、国鉄を国(運輸省)国鉄総裁を行政庁(運輸大臣)に準じて考え、従つて国鉄総裁の定員法にもとずく免職行為を行政庁の処分(公法上の行為)と観念することは、前記第三に述べたように、国鉄とその職員との関係が本来私法関係であると観念することと別段矛盾するものでないことが一層明かであると考えられる。以上要するに国鉄が定員法に基く整理の実施としてなした申請人等に対する本件免職行為はいわゆる公法上の行為でありそれに件う法律関係は公法関係であると認めるのを相当とする。

第五、申請人等は本件申請において、被申請人のなした本件免職行為は定員法による整理に藉口して実は組合活動に熱心であつた申請人等を単にその故に解雇したものであるから民法第九十条及び公労法第五条に違反し無効であると主張する。しかしながら、本件免職行為が前述の通り公法上の行為と観念すべきものである以上、たといそれが申請人等のように民法第九十条又は公労法第五条に違反するとしてもそれは法律上当然無効の行為というべきではなく違法な行政処分として取消の訴(いわゆる抗告訴訟)の目的となりうるに過ぎないものと解するのが相当である。

そうだとすれば、本件免職行為を法律上無効とし、その無効確認を訴求することは失当であつて、かかる訴を本訴とする本件仮処分申請は理由ないものとして却下すべきである(仮に申請人等の主張の趣旨が本件免職行為を法律上無効というのではなく、違法処分として取消を求めるというにあるならば、かかる取消の訴を本訴とする場合には、特例法第十条第二項により右処分の執行停止決定を求めるは格別、民事訴訟として仮処分命令を求めることは同法第十条第七項により許されないものであるからこの点において本件仮処分申請は却下を免れない。)よつて主文の通り決定する。

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